■有人探査の模擬実験をスタート■
火星の地表を覆っている土が、ハワイの火山に由来する玄武岩質の土とよく似ていることから、ハワイ島のマウナ・ロア山(標高4,169m)の麓で米航空宇宙局(NASA)が支援する「有人火星探査に於ける人間の心理状態の変化を調査する模擬実験プロジェクト「HI-SEAS」が今月からスタートした。男女6人が外の世界から隔絶された白いビニール製のドームの中で、8カ月間生活。米国で実施される火星探査の模擬実験としては最長となる。
ドームの大きさは直径約11m、高さ約6m。周囲は見渡す限り、マウナ・ロア山の玄武岩質の溶岩に覆われている。ほとんど植物や動物もなく、外に出るときは、必ず宇宙服を着用する。ドーム内の参加者6人は、科学や宇宙分野に深い関心を持ち、高い教育を受けた20代から30代の健康な男女だが、実験期間中、新鮮な食料は食べられない。インターネット全盛の時代に接続に20分もかかるなど、まるで宇宙空間で生活するのと同じような隔離状態に置かれている。
NASAは2030年代までに、火星に有人探査ミッションの実施を目標に掲げている。ただ、片道でも8カ月を要する火星への旅。この間に受ける放射線に人間が耐えられるかどうかは、まだ専門家たちにも分かっていない。さらに、最新の研究で、現在の科学的限界だと、火星へ向かう宇宙飛行士らは地球を離れて68日目から次々と死亡していくことが分かっている。また別の研究では、放射線が誘発する癌(がん)のリスクを考慮すれば、少なくとも火星への旅は1年以内に終わらせることが前提であることも明らかになった。
宇宙飛行士の肉体面だけでなく、精神的にも火星への有人探査ミッションの重圧に耐えられるか、という点もNASAでは重視している。模擬実験プロジェクトの関係者は、「宇宙飛行士の精神状態の問題を解決しない限り、火星には行けない」と指摘している。今回のプロジェクトでは、ドーム内の参加者6人の共同生活が、ミッション遂行にどういう影響を及ぼすのかを調べることが、主目的となっている。問題は実験の後半に起きる可能性が高く、参加者はうつ状態に襲われてくる、と見られている。実験が楽しくなくなり、終了までの8カ月を厳しく、長い道程に感じられるようになってくる、という。
マウナ・ロア山は、ハワイ諸島にある活火山で、ハワイ島を形成する5つの火山のうちの最大。マウナ・ロアとはハワイ語で「長い山」を意味し、山頂にはモクアウェオウェオと呼ばれるカルデラがある。体積は約75,000 km3で、地球で最も体積の大きい山とされている。
◎HI-SEAS
HP: hi-seas.org